ウォーキングは何分が適切?健康維持と身体機能改善のための運動量
「健康のためにウォーキングを始めたいけれど、何分くらい歩けばいいの?」
「毎日1万歩を目指さないと効果はない?」
「膝や腰に痛みがあっても歩いた方がいい?」
このような疑問を持っている方は多いのではないでしょうか。
ウォーキングは、特別な器具を必要とせず、年齢を問わず取り組みやすい有酸素運動です。心臓や血管の健康維持、生活習慣病の予防、体力の向上など、さまざまな効果が期待できます。
しかし、健康維持に必要な運動量と、筋力や歩行能力などの身体機能を改善するための運動量は、必ずしも同じではありません。
今回は、厚生労働省や世界保健機関(WHO)のガイドライン、医学研究を参考に、ウォーキングの適切な時間や歩数、効果的な取り組み方について、理学療法士の視点から解説します。
1.健康維持のためには1日何分歩けばいい?
ウォーキングの適切な運動量を考えるうえで、参考になるのが厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」です。
このガイドでは、成人と高齢者で異なる身体活動量が推奨されています。
成人は1日60分以上の身体活動、18~64歳の成人では、歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日60分以上行うことが推奨されています。
これは、おおよそ1日8,000歩以上に相当する活動量です。
ただし、60分間続けてウォーキングをする必要はありません。
通勤で歩く、買い物に出かける、家事をするなど、日常生活で身体を動かす時間も含まれます。
例えば、通勤で20分、買い物で15分、夕方の散歩で25分というように、1日の合計で身体活動量を確保することが大切です。
高齢者は1日40分以上の身体活動
65歳以上の高齢者では、歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日40分以上行うことが推奨されています。
歩数に換算すると、おおよそ1日6,000歩以上が目安です。
高齢者の場合、活動量の確保だけでなく、転倒予防や筋力維持、バランス能力の向上も重要になります。
なお、これらはウォーキング単独の時間ではなく、日常生活を含めた身体活動全体の目標です。
現在の活動量が少ない方は、最初から目標を達成しようとせず、無理のない範囲で少しずつ増やしましょう。
【厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」】
2.WHOが推奨するウォーキングの運動量
WHOは2020年に公表した身体活動ガイドラインで、成人に対して次の運動量を推奨しています。
– または高強度の有酸素性身体活動を週75~150分
– 加えて、週2日以上の筋力トレーニング
週150分を目標にする場合、1日30分の早歩きを週5日行うことで達成できます。
ただし、ゆっくりとした散歩がすべて中強度の運動になるわけではありません。運動強度は歩行速度だけでなく、その方の体力によっても変わります。そのため、健康維持を目的とする場合は、まず1日20~30分程度のウォーキングを習慣化し、体力に応じて時間や強度を調整する方法が現実的です。
【WHO Guidelines on Physical Activity and Sedentary Behaviour, 2020】
3.毎日1万歩は本当に必要?
ウォーキングの目標として「1日1万歩」という数字を聞いたことがある方も多いと思います。しかし、近年の研究では、必ずしも1万歩を達成しなければ健康効果が得られないわけではないことが示されています。
約4,400歩でも死亡リスクの低下と関連
2019年に医学雑誌『JAMA Internal Medicine』に掲載された研究では、平均年齢72歳の女性約16,700人を対象に、日常の歩数と死亡リスクの関係が調査されました。その結果、1日約2,700歩のグループと比較して、約4,400歩のグループでは死亡率が約41%低いという関連が認められました。また、歩数が増えるほど死亡リスクが低下する傾向がみられ、その関係は約7,500歩付近で緩やかになりました。ただし、これは観察研究であり、歩数を増やすことによって死亡率が直接41%低下すると証明したものではありません。
【Lee IM, et al. JAMA Internal Medicine, 2019】
年齢によって適切な歩数は異なる
2022年に『The Lancet Public Health』に掲載された研究では、15研究、約47,000人のデータを統合し、歩数と死亡リスクの関係が分析されました。その結果、死亡リスクの低下との関連が大きくなる歩数の範囲は、年齢によって異なることが報告されています。
– 60歳未満:1日約8,000~10,000歩
これらの結果から、すべての方が一律に1万歩を目指す必要はなく、年齢や現在の身体活動量に応じた目標設定が重要と考えられます。また、この研究で検討された主な指標は死亡リスクであり、筋力や関節機能の改善に必要な歩数を直接示したものではありません。
【Paluch AE, et al. The Lancet Public Health, 2022】
4.ウォーキングによって期待できる健康効果
ウォーキングを含む有酸素性身体活動には、さまざまな健康効果が期待できます。
① 心臓や血管の健康維持
定期的な身体活動は、心血管疾患や高血圧、2型糖尿病などの発症リスクの低下と関連しています。
ウォーキングによって身体活動量を増やすことは、こうした生活習慣病の予防に役立つと考えられています。
② 全身持久力の維持・向上
普段あまり運動していない方にとって、ウォーキングは体力づくりの第一歩になります。
継続的に歩くことで、日常生活に必要な持久力の維持・向上が期待できます。
ただし、体力を改善するには、現在の体力に対して適切な運動負荷を設定する必要があります。
③ 精神的な健康や睡眠への効果
WHOのガイドラインでは、身体活動によって不安や抑うつ症状の軽減、睡眠、認知機能などへの良い影響が期待できることも示されています。屋外でのウォーキングは、気分転換や運動習慣づくりにも取り入れやすい方法です。
【WHO, 2020】
5.ウォーキングだけで筋力や身体機能は改善する?
ここで重要なのが、健康維持と身体機能改善の違いです。ウォーキングは優れた有酸素運動ですが、すべての身体機能を十分に改善できるわけではありません。
例えば、歩行では下肢の筋肉を使用しますが、通常の歩行だけでは筋力向上に必要な負荷が不足する場合があります。特に、加齢に伴う筋力低下や、立ち上がり動作・階段昇降の能力低下がみられる方では、ウォーキングに加えて筋力トレーニングを行うことが重要です。
WHOでは、成人・高齢者ともに週2日以上の筋力トレーニングを推奨しています。
さらに、高齢者では、身体機能の維持・向上や転倒予防のために、バランストレーニングと筋力トレーニングを組み合わせた運動を週3日以上行うことも推奨されています。
例えば、ウォーキングに加えて、椅子からの立ち座り運動、かかと上げ、片脚立ちなどを取り入れる方法があります。
片脚立ちは転倒しないよう、必要に応じて手すりや安定した台につかまって行いましょう。
歩くことだけを目標にするのではなく、どの身体機能を改善したいのかによって運動内容を変えることが大切です。
【WHO, 2020】
6.ウォーキングは速く歩いた方が効果的?
ウォーキングの効果を考える際には、時間や歩数だけでなく、運動強度も重要です。
例えば、同じ30分のウォーキングでも、ゆっくり歩く場合と早歩きでは身体にかかる負荷が異なります。
中強度の運動を行う際には、「会話はできるけれど、少し呼吸が弾む程度」が一つの目安になります。
ただし、適切な強度には個人差があります。
普段ほとんど運動していない方や体力が低下している方では、通常の歩行速度でも十分な運動負荷になる場合があります。反対に、日頃から運動している方では、ゆっくり歩くだけでは体力改善に必要な負荷が不足することもあります。そのため、身体機能の改善を目指す場合は、現在の体力や身体の状態に応じて歩行速度や時間を調整することが重要です。なお、歩行速度を上げれば必ず健康効果が大きくなるわけではありません。まずは安全に継続できる強度を優先しましょう。
7.膝や腰に痛みがある場合も歩いた方がいい?
膝や腰に痛みがある場合、「運動した方がいいのか、それとも安静にした方がいいのか」と悩む方も多いと思います。このような場合は、痛みの原因や症状の程度によって対応が異なります。
例えば、膝の変形性関節症や慢性的な腰痛では、適切な運動療法が推奨されることがあります。しかし、痛みを我慢して長時間歩くことが、必ずしも身体機能の改善につながるわけではありません。歩行によって痛みが強くなる場合や、翌日まで症状が大きく悪化する場合には、運動量の調整が必要です。また、関節の腫れや熱感、急激な痛みの悪化などがある場合には、医療機関での評価が必要になることがあります。
大切なのは、単純に歩く量を増やすのではなく、身体の状態を確認しながら適切な負荷を設定することです。
8.ウォーキングを効果的に続けるためのポイント
ウォーキングの健康効果を得るためには、一時的に長時間歩くよりも、継続して身体活動量を確保することが大切です。
① 最初は10~15分から始める
運動習慣がない方は、最初から30分以上歩こうとする必要はありません。
まずは10~15分程度から始め、身体の反応を確認しながら少しずつ時間を増やしましょう。
体力が低下している方では、さらに短い時間から始めても構いません。
② 歩数だけでなく身体の変化を確認する
歩数が増えたことだけを運動の成果と考えないことも重要です。
例えば、「以前より疲れずに歩ける」「階段が上りやすくなった」「外出する機会が増えた」など、日常生活での変化にも注目しましょう。
③ 筋力トレーニングを組み合わせる
身体機能の改善を目的とする場合には、ウォーキングだけでなく、筋力やバランス能力を高める運動を組み合わせることが効果的です。特に高齢者では、歩行能力だけでなく、立ち上がりや方向転換などの動作能力も重要になります。
④ 無理なく継続できる目標を設定する
運動は継続することが大切です。仕事や家事の合間に歩く、近所を散歩する、買い物で少し遠回りするなど、生活の中に取り入れやすい方法を選びましょう。
9.まとめ
ウォーキングの適切な時間は、年齢や健康状態、運動目的によって異なります。
健康維持のためには、厚生労働省が推奨する成人1日60分以上、高齢者1日40分以上の身体活動が一つの目安になります。また、WHOは中強度の有酸素性身体活動を週150~300分行うことを推奨しており、早歩き30分を週5日行う方法などが考えられます。
一方で、運動習慣のない方が最初からこれらの目標を達成する必要はありません。
まずは現在よりも身体を動かす時間を増やすこと。そして、無理なく継続することが重要です。
さらに、筋力やバランス能力、歩行能力などの身体機能改善を目指す場合には、ウォーキングに筋力トレーニングなどを組み合わせることが推奨されます。
須坂トータルケア整体院では、理学療法士の視点から身体の状態や動作を評価し、一人ひとりの目的に合わせた運動方法を大切にしています。「どのくらい歩けばいいのかわからない」「ウォーキングをしているのに身体の不調が改善しない」「自分に合った運動を知りたい」そのようなお悩みがある方は、お気軽にご相談ください。
参考文献
- 厚生労働省.健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023.2024.
- World Health Organization. WHO Guidelines on Physical Activity and Sedentary Behaviour. Geneva: WHO; 2020.
- Lee IM, Shiroma EJ, Kamada M, et al. Association of Step Volume and Intensity With All-Cause Mortality in Older Women. JAMA Internal Medicine. 2019;179(8):1105–1112. doi:10.1001/jamainternmed.2019.0899
- Paluch AE, Bajpai S, Bassett DR, et al. Daily steps and all-cause mortality: a meta-analysis of 15 international cohorts. The Lancet Public Health. 2022;7(3)–e228. doi:10.1016/S2468-2667(21)00302-9

