天気が悪いと関節が痛む?気圧・気温と痛みの関係を医学研究から解説
気象関連痛
天気痛
「雨が降る前になると膝が痛む」
「台風が近づくと腰が重くなる」
「寒い日は関節がこわばる」
このような経験をしたことはありませんか?
昔から「天気が悪いと古傷が痛む」と言われてきましたが、実際に気象の変化と身体の痛みには関係があるのでしょうか?
近年、気圧や気温の変化と慢性的な痛みの関係について研究が進められています。特に、愛知医科大学や中部大学などの研究者によって、気象条件と痛みの関連性、神経系の働き、気象変化に敏感な人の特徴などが調べられてきました。今回は、日本国内で発表された医学論文を中心に、天候と関節痛の関係、痛みが強くなる仕組み、日常生活で取り組める対策を解説します。
1. 天気が悪いと関節が痛むのは本当?
結論から言うと、天候の変化によって痛みが強くなる方がいることは、日本国内の研究でも報告されています。
このように、天候や気象条件の変化に伴って痛みが悪化する現象は「気象関連痛」または「天気痛」と呼ばれています。
2021年、日本疼痛学会の学術誌『PAIN RESEARCH』に掲載された佐藤純らの総説では、気象関連痛の疫学や臨床的特徴がまとめられています。
この論文では、2020年に国内で実施された16,482人を対象とするアンケート調査が紹介されています。
調査では、天気痛があると回答した割合は女性43%、男性20%でした。また、天気痛があるように感じると回答した人も一定数存在しました。
天気痛として報告された主な症状は以下のとおりです。

この結果から、関節痛も天気痛として自覚される症状の一つであることがわかります。
ただし、この調査は本人の自覚症状を尋ねたアンケートであり、天候が直接痛みを引き起こしたことを証明するものではありません。
また、天気痛を感じている方が調査に回答しやすいなど、結果に偏りが生じる可能性もあります。
したがって、天気によって痛みが変化すると感じる方は存在しますが、すべての関節痛が気象変化によって起こるわけではありません。
2. 日本国内の大規模研究からわかったこと
2023年、日本生気象学会雑誌に、大塚靖子・佐藤純による気象関連痛の研究が掲載されました。
この研究では、ウェザーニュースの「天気痛予報」に寄せられた症状報告を分析しています。
国内の気象関連痛研究(2023年)
分析した症状報告:434,409件
調査期間:2020年6月〜2022年12月
大塚・佐藤(2023)『日本生気象学会雑誌』[2]研究では、天気痛を感じたという症状報告の地域差と、気圧変動の特徴が調べられました。
特に注目されたのは、次の3種類の気圧変化です。
-
-
低気圧・高気圧に伴う変化: 天気の変化に伴って生じる比較的大きな気圧の変動。
-
微気圧変動: 天候が崩れる前などに生じる小さな気圧変化。
-
大気潮汐: 大気中で生じる周期的な気圧の変動。
-
分析の結果、気圧変動の特徴には地域差があり、天気痛の報告が多かった山形県や山梨県では、特定の気圧変動が比較的大きい傾向が認められました。この研究は、気象変化と症状報告の関係を考えるうえで重要な国内データです。一方、症状報告を行った方は一般住民から無作為に抽出された集団ではありません。また、地域ごとの関連性が認められても、個々の関節痛の原因が気圧であるとは断定できません。[2]
3. なぜ気圧が下がると痛みが強くなるのか?
気圧と痛みの関係を理解するうえで、注目されているのが神経系の働きです。2003年、佐藤純は『日本生気象学会雑誌』に「気象変化による慢性痛悪化のメカニズム」という総説を発表しています。この研究では、慢性痛の状態を再現したラットを用い、気圧や気温の変化が痛みに関連する行動へ及ぼす影響を調べました。
① 気圧の低下と痛み
研究では、関節炎や神経障害性疼痛のモデルラットに対し、人工的に気圧を低下させる実験が行われました。その結果、気圧を27hPa低下させた条件で、痛みに関連すると考えられる行動の増加が確認されました。さらに、気圧低下による痛みの増強には、交感神経系の活動が関係する可能性が示されました。交感神経は自律神経の一部であり、心拍数や血管の収縮など、身体のさまざまな働きを調整しています。ただし、これは動物実験の結果です。人間でもまったく同じ仕組みで関節痛が悪化すると証明されたわけではありません。
② 内耳が気圧変化を感知する可能性
同研究では、内耳の働きについても検討されています。内耳は聴覚や平衡感覚に関係する器官です。動物実験の結果から、内耳の前庭系が気圧の変化を感知し、神経系の反応に関与する可能性が示されました。この仕組みは、天気痛の発生を説明する仮説の一つとして注目されています。しかし、「内耳が気圧を感知するから、必ず関節痛が起こる」という関係が人間で確立されたわけではありません。[3]
4. 気温の低下も関節痛に関係する?

雨の日や冬場には、気圧だけでなく気温も変化します。前述した佐藤らの研究では、気温の低下についても動物実験が行われています。
具体的には、環境温度を22℃から7℃に下げることで、慢性痛モデルラットの痛みに関連する行動が増強しました。
また、皮膚の冷たさを感知する神経線維の反応が変化することが、痛みの増強に関与している可能性が示されています。
この結果から、寒さによる痛みの変化には、単純に筋肉が硬くなるという説明だけでなく、神経系の反応も関係している可能性があります。一方、実際の人間の関節痛には、疾患の種類、身体活動、睡眠、生活環境など、複数の要因が関係します。そのため、寒い日に膝が痛くなるからといって、気温だけが原因であるとは限りません。[3]
5. 気象変化と慢性痛には自律神経が関係する?

2018年、櫻井らは『日本生気象学会雑誌』に「運動器慢性痛における気象の影響」という総説を発表しました。この論文では、運動器の慢性的な痛みと気象条件の関係について、国内外の研究や臨床的な知見が整理されています。研究者らは、天候によって痛みが変化すると訴える患者に対し、人工的に気圧や気温を変化させる環境で症状を確認してきたことを報告しています。その結果から、気象変化に対する痛みの反応には、自律神経系が関与する可能性が指摘されています。ただし、気象変化と痛みの因果関係については、研究結果が必ずしも一致していません。また、自律神経の働きだけで慢性痛のすべてを説明することもできません。慢性的な痛みには、身体の組織の状態、神経系の働き、心理社会的要因、日常生活の負荷などが複雑に関係します。天気痛についても、一つの原因だけで説明するのではなく、複数の要因が関わる可能性を考えることが大切です。[4]
6. 天気痛に運動療法は効果がある?
天候によって関節痛が強くなる場合、運動療法は役立つのでしょうか。2018年の櫻井らの総説では、気象変化の影響を受ける慢性痛患者に対し、薬物療法と運動療法を組み合わせることで症状の改善がみられた臨床例が紹介されています。ただし、これだけで運動療法が天気痛そのものに有効であると結論づけることはできません。現時点では、気圧の変化による関節痛を直接予防・改善する運動療法について、十分な質の高い研究が確立されているとはいえません。一方、慢性的な腰痛や変形性膝関節症などでは、それぞれの疾患に対して運動療法が推奨されています。そのため、天候によって痛みが変化する方でも、原因となる疾患や身体機能に応じた運動を継続することには意味があります。重要なのは、痛みが強い日に無理をすることではなく、その日の状態に合わせて運動量を調整することです。例えば、普段は30分程度歩いている方であれば、痛みが強い日には歩行時間を短くする、屋内で軽い運動に変更するなどの方法が考えられます。ただし、運動中に痛みが急激に強くなる場合や、関節の腫れ・熱感がある場合には、運動を中断し、必要に応じて医療機関へ相談してください。
7. 天候によって関節が痛むときの4つの対策
気象条件そのものを変えることはできませんが、痛みへの対応を工夫することは可能です。
① 痛みと天候の変化を記録する
天候と痛みの関係を把握するために、簡単な記録をつけてみましょう。記録する項目としては、痛みの強さ、天候、気温、睡眠時間、身体活動量などが考えられます。
例えば、痛みを0〜10点で評価し、毎日同じ時間に記録すると、症状の変化を振り返りやすくなります。ただし、天候と痛みが同時に変化していても、気象条件が直接の原因とは限りません。
② 身体を冷やさない
寒さによって関節のこわばりや不快感が強くなる場合には、室温や衣服を調整し、身体を冷やさないようにしましょう。入浴や温熱によって一時的に症状が和らぐ方もいます。
ただし、温めることが天気痛そのものを治療するという十分な根拠はありません。関節が赤く腫れている、熱を持っているなどの場合には、自己判断で温め続けないことが大切です。
③ 痛みに応じて運動量を調整する
慢性的な関節痛がある場合、活動量が極端に少なくなることで筋力や身体機能が低下する可能性があります。痛みが許容できる範囲で、関節をゆっくり動かす運動や軽い筋力トレーニングなどを継続することが考えられます。ただし、適切な運動の種類や強度は疾患によって異なります。
④ 天候以外の要因にも目を向ける
痛みが強くなると、気圧や天候だけに注目してしまうことがあります。しかし、関節痛には筋力、関節可動域、身体活動、睡眠、疾患の状態なども関係します。そのため、痛みが続く場合には、天候だけでなく身体全体の状態を評価することが重要です。
8. 天気のせいだと思っていても注意したい症状
天候によって痛みが変化すると感じていても、すべての痛みを「天気痛」と判断することは適切ではありません。特に、以下の症状がある場合には注意が必要です。
-
-
関節が急に赤く腫れ、強い痛みが出現した
-
発熱を伴う関節痛がある
-
転倒や外傷後から強い痛みが続いている
-
手足のしびれや筋力低下が進行している
-
安静にしていても強い痛みが続く
-
痛みが長期間続き、日常生活に支障が出ている
急激な関節の腫れや発熱を伴う痛みでは、感染性関節炎などの疾患も考慮する必要があります。こうした場合は速やかに医療機関を受診してください。
-
9. まとめ|天気と痛みの関係を正しく理解することが大切
今回紹介した研究から、気象変化と慢性痛の関係について、いくつかの重要なことがわかっています。まず、天候によって痛みが変化すると感じる方は実際に存在し、国内のアンケート調査や症状報告でも確認されています。また、動物実験や一部の臨床研究では、気圧や気温の変化が痛みの感じ方に影響する可能性が示されています。その仕組みには、内耳や自律神経系、温度を感知する神経などが関係している可能性があります。一方で、これらの研究結果だけで、天候がすべての関節痛を直接引き起こすと断定することはできません。大切なのは、天候と痛みの関係を理解しながら、関節や筋肉、神経、身体機能など、痛みに関係するさまざまな要因に目を向けることです。
須坂トータルケア整体院では、理学療法士の視点から、関節可動域、筋力、姿勢、動作などを確認し、身体の状態に合わせた施術や運動指導を大切にしています。天候の変化に伴う慢性的な腰痛や膝の痛みなどでお悩みの方も、天候だけを原因と決めつけず、身体の状態を適切に把握することから始めてみましょう。
参考文献
[1]佐藤 純ほか(2021):「気象関連痛(天気痛)の疫学,臨床的特徴と発症予測情報サービス」.PAIN RESEARCH, 36(2), 75–80. J-STAGEで論文を読む
[2]大塚 靖子・佐藤 純(2023):「『天気痛予報®』利用者の症状報告データから分析した天気痛の地域特性および気象的要因に関する考察」.日本生気象学会雑誌, 60(1), 15–22. J-STAGEで論文を読む
[5]佐藤 純(2015):「気象変化と痛み」.脊髄外科, 29(2), 153–156. J-STAGEで論文を読む
