腰部脊柱管狭窄症とは?神経圧迫による原因と症状をわかりやすく解説!
腰部脊柱管狭窄症
「少し歩くと足が痺れて思うように歩けない…」そんな経験はありませんか?
この記事では、脊柱管狭窄症のメカニズムを分かりやすく解説し、
痛みを和らげるためのヒントや、
前向きに付き合っていくための方法をご紹介します。
腰部脊柱管狭窄症とは
脊柱管は背骨、椎間板、関節、靱帯などで囲まれた神経(神経根や馬尾)が通るトンネルです。長い年月の間、体を支えているとこれらの組織が変形し、脊柱管が狭くなることがあります。腰椎部の神経の通り道(脊柱管)が狭くなるとその中を走る神経が圧迫され、下肢の痛みやしびれ感、麻痺(脱力)が発生します。時には股間のほてり、排尿後にまだ尿が完全に出しきれない感じ(残尿感)、便秘などの症状が発生することもあります。

これらの症状は主に立つ・歩くことにより悪化し、さらに長距離を続けて歩くことができなくなります。この歩く・休むを繰り返す状態を間欠跛行(かんけつはこう)と呼び、腰部脊柱管狭窄症に特有な症状です。

1.殿部から下肢の疼痛やしびれを有する。
2.殿部から下肢の疼痛やしびれは立位や歩行の持続によって出現あるいは増悪し,前屈や座位保持で軽快する。
3.腰痛の有無は問わない
4.MRIなどの画像で脊柱管や椎間孔の変性狭窄状態が確認され,臨床所見を説明できる。以上の4項目をすべて満たすこと。
日本整形外科学会・日本脊椎脊髄病学会:腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021.
40歳〜79歳の日本人における有病率は、診断サポートツール(LSS-DST)を用いた調査で約5.7%と推定されています。別の研究では、症状を伴うLSSの有病率は約9.3〜10.1%と報告されており、約10人に1人が該当するというデータもあります。男女比は男性 5.7%、女性 5.8% とされており、全体的な男女差はほとんどありません。
腰部脊柱管狭窄症の原因・病態
一言で言えば「加齢に伴う背骨の変形」です。
椎間板の変性:背骨のクッションである椎間板が加齢で水分を失い、潰れて外側に飛び出します(膨隆)。これにより、前方から脊柱管を圧迫します。
黄色靱帯の肥厚:脊柱管の後方にある「黄色靱帯」が、長年の負担によって分厚く、硬くなります。これが内側にたわむことで、後方から神経を圧迫しま
椎間関節の変形(骨棘):背骨の関節に負担がかかり続けると、骨のトゲ(骨棘)が形成されます。これが脊柱管を狭くする直接的な原因となります。
脊椎すべり症:背骨の骨が前後にズレることで、通り道がガタガタになり、神経が強く圧迫されるケースもあります。
腰部脊柱管狭窄症になりやすい姿勢・動作
腰部脊柱管狭窄症の症状と関連した姿勢や動作について数々の研究がされています。
①後屈(体を反らす)は脊柱管の断面積が狭まり(狭窄を強める)、前屈(前傾)で脊柱管の断面積が広がる!!
Schmid GD, et al.Changes in cross-sectional measurements of the spinal canal and intervertebral foramina as a function of body position/ AJR (American Journal of Roentgenology), 1999年

日常的に体を反らす動作は何気ないものですが、その動きのクセは人によって異なります。
例えば、股関節の付け根が硬く、股関節を十分に伸展(後ろに反らす動作)できない場合、体はそれを補うために腰椎を過剰に反らせる「代償動作」を強いられます。
このように、本来動くべき部位の柔軟性が不足した状態で体を反らすことは、股関節が動かない分を腰が肩代わりすることで、腰椎のでの動きが繰り返され、結果として腰椎の後方組織である黄色靭帯の肥厚や、椎間関節の変形を招きやすくなります。
②骨盤の傾きや背骨の並び(アライメント)が悪いと、特定の部位に負荷が集中し、変性が進みやすくなる!!
Hikata T, et al. “The relationship between sagittal spinal alignment and the incidence of lumbar spinal stenosis.” Journal of Orthopaedic Science, 2015.

腰部脊柱管狭窄症において、姿勢と病態は密接に関係しています。まず、「反り腰」の姿勢は脊柱管を物理的に狭めるため、神経圧迫を強めてしまいます。その痛みを回避しようとする結果、体は代償的に「猫背」や、骨盤が前方に突き出る「スウェイバック」(骨盤後傾)のような、腰を丸める姿勢をとるようになります。
重要なのは、これらの代償姿勢が一時的な痛みを和らげる一方で、腰椎周辺の筋肉や関節に不自然な負担をかけ、さらなる悪循環を招くという点です。
「なぜその姿勢になってしまうのか」という根本的なメカニズムを理解することが、治療や予防において不可欠です。
③重い荷物の持ち運びや、不自然な姿勢での作業が累積することで、脊柱管狭窄症のリスクが有意に高まる!!
Seidler A, et al. “The role of cumulative physical work load in lumbar spinal stenosis: a case-control study.” Occupational and Environmental Medicine, 2001.

仕事や家事など、日常の何気ない動作の繰り返しが腰への負担を蓄積させ、脊椎の変性を進める原因となります。
大切なのは、日々の動作を工夫や、体の使い方自体を改善することで、腰への負担を最小限に抑えることです。
私たちは、動作や姿勢・日常的な腰への負担が何が原因かを
追求し、施術を行なっています。
これが症状を改善または再発予防する
ために必要不可欠と考えています。
当院へのアプローチ
まず、腰部脊柱管狭窄症に対する治療は保存療法が第一選択とされます。
運動療法は、2年後の経過として手術療法と同等の効果があるとされています。
そのため、当院では自宅でできる運動療法を中心に指導を行います。
1. カウンセリング
「どこが痛いか」だけでなく、「いつ、どんな時に、どんな動作で痛むのか」を深くお伺いします。
・生活習慣のヒアリング:作業姿勢、デスクワーク時間、運動習慣、ストレスレベルなど、腰に繰り返し負荷がかかる要因を特定します。
・既往歴と症状の分析::過去の怪我や病気、現在の症状の経過を詳しく把握することで、腰部脊柱管狭窄症以外の原因も鑑別し、施術の安全性を確保します。

2.姿勢・動作評価
姿勢・静的アライメント評価: 猫背、反り腰、骨盤の傾きなど、身体のバランスを分析し、腰に負担をかけている姿勢をチェックします。
動作・動的アライメント評価::前屈や後屈、ひねりなどの動作テストを通じて、どの筋肉や関節の動きが悪くなっているか(運動機能障害)を特定します。特に、股関節や胸椎(背中の上部)といった腰と関連の深い部位の連動性(キネティックチェーン)を細かく評価します。
ベッド上評価:腰椎(腰の骨)だけでなく、腰痛に関連する股関節や胸椎(背中の上部)の関節が、どれだけスムーズに動くか全身的な柔軟性をチェックします。
特に股関節の屈筋群や背筋群の柔軟性低下は骨盤の前傾と腰椎の前腕形成に関与しており、これらの筋の障害や可動域制限などにより腰に過度な負担をかける可能性があります。また腰への負担が筋力低下が原因かを評価します。

3.施術(徒手療法・ストレッチ・運動療法・予防)
主にカウンセリングと姿勢・動作評価に基づき原因に対して施術を行います。
徒手療法
腰椎との関連が深い胸椎や股関節に対して、正しい姿勢や動きを身体に再学習させるために、関節の調整を加えます。

ストレッチ
姿勢や動作不良改善を目的に、ストレッチを行います。胸椎の伸展可動域や股関節の可動域を向上させることで、腰椎への過剰な負担も減らすことができます。
ストレッチを行う部位は、カウンセリングと姿勢・動作評価に基づき原因に対して行います。

トレーニング(運動療法)
当院では、主に姿勢や動作の改善を目的としたトレーニングを行います。
特に、骨盤や腰椎(腰の骨)の正しい動きを体が思いだせるよう、体幹やヒップ周りのエクササイズを中心に行います。
これにより、日常の動きがスムーズになり、疲れにくい理想的な姿勢へと導きます。
お一人おひとりのお体に合わせた最適な運動法をご提案しますので、運動が苦手な方もご安心ください。

さいごに
「もう年だから」「手術しかないと言われたから」と、好きな旅行や散歩を諦めてはいませんか?
腰部脊柱管狭窄症は、確かに加齢による変化が原因の一つではありますが、決して「良くならないもの」ではありません。
大切なのは、なぜそこに負担がかかってしまったのかという「お体全体の繋がり」に目を向けることです。
股関節の柔軟性を取り戻し、体幹で支える力を養うことで、驚くほど歩行が楽になるケースを私たちは数多く見てきました。
あなたの歩みを止めている原因を一緒に見つけ出し、もう一度「どこまでも歩ける自信」を取り戻すお手伝いをさせてください。
まずは小さな一歩から、当院と一緒に始めてみませんか。
日本整形外科学会「腰部脊柱管狭窄症(整形外科シリーズ 8)」 https://www.joa.or.jp/public/sick/pdf/MO0013CKA.pdf (2023年1月作成)
日本整形外科学会診療ガイドライン委員会 編『腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン 2021(改訂第2版)』,南江堂,2021.
Yabuki S, et al. “Prevalence of lumbar spinal stenosis, using the diagnostic support tool, and correlated factors in Japan: a population-based study.” Journal of Orthopaedic Science, 2013.
Ishimoto Y, et al. “Prevalence of symptomatic lumbar spinal stenosis and its association with physical performance in a population-based cohort in Japan: the Wakayama Spine Study.” Osteoarthritis and Cartilage, 2012.
Delitto A, et al.Physical Therapy Around the World: Physical Therapy vs Surgery for Lumbar Spinal Stenosis.Annals of Internal Medicine (2015)
